昨日(27日水曜)の午後、バルセロナからフランス・トゥールーズに到着した。バルセロナからナルボンヌまで特急で2時間、そこで各駅に乗り換え1時間半ほどの鉄道旅だった。
宿泊先は前回とは違うが再び貸しアパートである。トゥールーズ中心駅となるマタビオから、2人でトランクを滑らせテクテクと20分以上歩いた。Googleさんはこのへんだと教えてくれるが、夫に来たメールにあるようなドアが見当たらない。2人で右往左往していると、通りかかった男性が「ジャパン!明日サモアとだよね!」と話しかけてくれた。自国の試合以外の日程を把握しているのだからきっとラグビーファンだ。ラグビー好きに悪い人はいない(あまりいない)。
やはりそうだ。「何か困っていることがあったら助けるよ」と言ってくれた。P(パートナー)がアパート名を告げるとスマホのGoogleさんで調べてくれた。「そこだよ!」Pの背後の門から入ったアパートだった。「ありがとう!」「どういたしまして。ジャパンの健闘を祈ってるよ」「フランスの健闘を祈ってます」言い合って別れた。
さて、今朝スマホでフランスで売ってるおにぎりは一個800円でしかもまずい、という記事をPに伝えたら、目尻を下げて「佐伯さんが作ってくれたおいなりさんは美味しかったなあ。俺は涙が出そうになったよ」と話し始めた。ビジャレアル3日目。「佐伯さんに挨拶だけでもしたい」とバレンシア着の飛行機でやってきたオランダ在住の娘を佐伯さんと迎えに行った日に、佐伯さんが作ってきてくれたおいなりさんの話を、Pは何度も嬉しそうに語るのだ。「朝から一生懸命作ってくれたと思うと嬉しいよね」。私たち二人には同時に、彼女がキッチンで酢飯をかき混ぜ、油揚げに詰める姿が浮かんでいたと思う。お味噌汁、美味しい緑茶、煮昆布も添えられていた。
「おにぎりが食べたい。米が食べたい」とうわごとのようにつぶやいていたPは、おにぎりより格上のおいなり、しかもお手製、しかも佐伯夕利子氏のお手製だ。Pは「あのおいなりさんのおかげで、また旅を楽しもうという前向きな気持ちになれた」と感謝にたえなかった。Pの顔を見ながら、人の情はかくも人に力を与えるものかと感慨深い。
長く旅をしていると、さまざまな人に助けられる。
旅の始まりとなった前回のトゥールーズで、アパートの鍵を見つけてくれた父子の話を書いた。助けてくれた少年たちに、Pはキティちゃんのピンバッジ(日本ラグビー公認グッズ)を2個渡した。1個ではなく2個渡したPを心底偉いと思った。他にも、モンペリエに着いた日、トラムの切符をどこで買うのか右往左往していると、大学生っぽいインド系と思われる女性が「何かお困りですか?」と声かけてくれた。すぐに買い方を教えてくれ、自分も同じトラムに乗るからと一緒に乗ってくれた。助かった。
同じモンペリエで車を借りたとき、給油する方法がわからなくてPが右往左往していたら、年配のご夫婦が助けてくれた。英語がわかる方たちで助かった。昨夜も、スーパーで量り売りの果物の計量場所を、女の子が教えてくれた。いまいるアパートに入るとき、同じアパートに住む男の子たちが階段の灯りのスイッチを教えてくれた。
「口があれば、京(京都)まで上れる」
そう教えてくれたのは母だった。わからないことがあれば、人に聞け、ということだ。そのおかげで、幸か不幸か、他人に助けを求めることを躊躇しない人間になった。迷惑かもとか、恥ずかしいとか、あまり思わない。自分も助けを求められたら嬉しいからかもしれない。助けられた側はもちろん嬉しいし、助けた側も幸せになる。人に助けを求めることはレジリエンス(逆境を乗り越える力)の三大要素のひとつなのだから。
今日はこれからサモア戦の行われるスタジアムへ出かける。ジャパンも互いに助け合って勝利をつかんでほしい。精一杯応援しようと思う。
こちらは昨夜のトゥールーズ。20時過ぎから夕焼けになる。
サモア戦に向け、少し贅沢をした。鋭気を養おうと肉を食べた。