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『観ないで死ねるか!sports love Journey VOL12 再びラグビーW杯編』「サモア戦ハーフタイムの芝に見たもの」

ハーフタイムの芝は、日本の自陣のほうが荒れていた。

サモア戦をメインスタンド一階の最前列から14番目、コーナーフラッグが目の前だ。フィールドにかなり近い席で試合を観た。前半、日本がサモアの猛攻を何度もしのいだ右サイドだった。選手の息づかい、かける声、表情もはっきり見えた。

ハーフタイムにフィールドに目をやると、ゴールラインから22メートルラインの間は、所々芝生がめくれ上がっていた。特にゴールライン前は何度もスクラムを組んだため、掘り返された土が散らばりデコボコだ。それをハーフタイムの間にグランドキーパーらしき人たちが丁寧にならしていた。背をかがめ芝を整える人たちが8人くらいいただろうか。それに対し、反対側のサモア陣にグランドキーパーは3人ほど。圧倒的に日本が攻め込まれた証だった。

前半のスタッツで支配率が掲示板に出たが、たしかサモアが68%だったと思う(間違っていたらごめんなさい)。やはりサモアがボールを持つ時間は長かった。

ところが、スコアは17-8と日本リードで折り返した。日本が芝を汚さず比較的スムーズに2トライを挙げたのに対し、サモアは日本の分厚い守備網に苦しんだ。

例えば序盤。日本に先制トライを奪われ0-7とリードされたサモアはトライに固執した。すでにイングランド、アルゼンチンに敗れ2敗のサモアは日本以上に、トライを量産して勝たなければいけない試合だ。幾度となくPG(ペナルティゴール)のチャンスを得ても、3点を狙わずトライにこだわった。私たちの目の前で、サモアボールのスクラムが組まれ、ラインアウトが行われた。

この姿勢に会場は大いに盛り上がった。トライを獲りに行こうとするアグレッシブなサモアを、同国サポーターはもちろんのこと、フランスの人たちも手拍子で応援した。私の隣に座ったフランス人男性は拳を振り上げ立ち上がり、夫人と見られる女性から「周りは日本のサポーターたちでいっぱいなんだからやめなさいよ」とたしなめられていた(フランス語はわからないので推察)。とにもかくにも会場全体が、あの芝生がめくれ上がった時間帯にサモアを応援した。

にもかかわらず、日本はサモアにトライを与えなかった。正面から何度もはじき返されても、中村亮土は果敢にタックルに行った。堀江翔太らフォワード陣も大きな岩が転がってくるような強烈なモールを懸命に押しとどめた。

手に汗握る一連の攻防は、結局サモアがペナルティキックを選択して終了した。前半25分のことだ。スコアは7対3になったが、この時間帯をしのぎサモアを波に乗らせなかったことは、日本にとって大きかったと思う。

前半終了間際にトライを奪われ25対15で迎えた後半35分、日本がペナルティーを獲得した。この段階で3トライの日本は4トライ目を奪えば、ボーナスポイント(BP)の勝ち点1を上乗せできる状況だった。しかし、あえてPGを選択。松田力也がきっちり決めて28対15とした。

フランスではトライを狙わなかった日本の選択に疑問を投げかける報道があったが、私は前半にサモアが攻め疲れた末にPGを選んだ時間帯を思い出し、近くの席で一緒に応援していた日本人男性と「無理にいかなくていいよね。PGでOKだよね」と言い合った(フランスに妻子連れで来ていて、ラグビーにとても詳しそうだった)。

なぜなら、あの3点は最後に「効いた」

タイムマネージメントをして試合を終わらせなくてはならない重責を、交代メンバーが担ったのだから。途中出場の22歳李承信らは、それこそ心臓が口から飛び出しそうなほど緊張したのではないか。私はつい「大丈夫!大丈夫だよ」と大声で叫んでしまった。

周知のように後半、日本はサモアに追い詰められた。両国以外の観客たちは、またもサモアを応援し始めた。かなりの時間ひとり少ないまま戦っている捨て身のサモアにシンパシーを感じるのは、ある意味当然だろう。各々の熱が塊となり日本選手を焼き尽くすかのような異様な雰囲気。まるで2015年南アフリカ大会の南ア戦で日本が詰め寄ったときにそっくりだった。8年を経て、逆の立場に立ったのだ。

しかし、日本は6点差を死守した。あれが3点差だったら、選手はよりシビアなメンタリティで残り数分を戦わなくてはいけなかったと思う。結果論ではあるが、PGを狙って正解だった。

日本には「負けるが勝ち」という言葉がある。

ある時間帯は負けに見えても「終わり良ければすべて良し」なのだ。さまざまな見方があるだろうが、私は前半25分にPGを選ばせた日本の守備力の勝利だと感じた。

「トライがとれそうでとれない。どうすればいいのだ?」

そんなサモアの混乱を、あのざっくりとめくれ上がった芝が如実に表していたように思う。

アルゼンチンにはきっと勝ってくれると信じたい。すでに3試合をみせてくれているアルゼンチンを、高い分析力を持つ日本は丸裸にするだろう。

★写真は、前半にゴールライン前でラインアウトからの攻撃を繰り返すサモア。

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